ヴワェル魔法図書室

お品書き

・安物の紅茶くらい飲んでもいいじゃない
・あなたの代わりなんて誰も居ないわ
・人としての死を望むなれば
・薬草売りの聖なる田舎娘


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『安物の紅茶くらい飲んでもいいじゃない』

ドアを開けて悪魔の少女が部屋に入ってくる
それを見て人間の女はティーカップを置いて悪魔に微笑みかけた

悪魔「・・・何を飲んでいるのかしら?」

人間「うちの店にあった紅茶やね」

悪魔「正確にはあなたの店でワタクシが買った紅茶でしょう?」

人間「まぁ、細かいことは気にすんなって」

悪魔「それはあなたが言うせりふじゃないと思うけど」

人間「それにしても悪魔ってのは甘いものしか食べないのか? 虫歯になるぞ?」

悪魔「随分食べておいて言うことじゃないと思うけど・・・
   来客をもてなすときには甘いものが一番だと思いますよ
   虫歯に関しては毎日歯を磨いているのでご心配なく」

人間「今度ウチが来るときはカップラーメンのひとつでも用意しておいてくれ」

悪魔「考えておくわ
   しかしよくもまぁ、人の家に来てそんなに食べるわね」

人間「正確には悪魔の家だがな 人を待たせるからこういうことになるんや」

悪魔「それで、今日はただお菓子を食べに来たわけじゃないのでしょう?」

人間「あぁ、いつぞや頼まれていた魔法の鏡が完成したんで届けに来たんや」

悪魔「あら、ありがとう
   ついでにいつぞや借りていった本も持ってきてくれればよかったのに」

人間「『口の減らない悪魔を黙らせる100の方法』だったっけ?」

悪魔「『礼儀知らずな人間を懲らしめる100の方法』だった気がするわ」

人間「覚えてたら今度持ってくるわ」

悪魔「(本当にあるのかしら・・・)
   とにかくあなたは沢山の本を借りてるのですから
   今度来るときに少しでも返しなさいよ」

人間「考えておくわ
   そっちこそ鏡の代金を今度来るときまでに用意しておけよ」

悪魔「覚えてたら用意しておくわ」

そのやり取りをしている間に人間の女はお菓子を一袋空けて
更に紅茶も2杯飲んだのであった


『あなたの代わりなんて誰も居ないわ』

紫の長い髪の女が草原の片隅にある家の焼け跡に向かって歩いている。
それを見つけて灰色の髪の女が声をかけた。

灰色の髪の女「やぁ、フラットも来てくれたのか」

フラット「今日ならあんたがここに来ると思ってな
     今日は旦那と娘さんの命日だろ?」

灰色の髪の女は軽く頷くと焼け跡の脇にある簡素な墓に花を供えた。

フラット「おいおい、それって鈴蘭だろ?
     墓に供える花は昔から菊か百合かエーデルワイスと決まっているぞ」

灰色の髪の女「エーデルワイスは初耳だね
       この花は娘が好きだった花でね・・・
    毎年こうやって供えてやっている」

フラット「ほぅ、ところで仕事のほうは忙しくないのか?
     ・・・って天下の焼津博士ともなると部下任せでいいのか」

焼津「いや、本当は墓参りなんてしてる暇はないのだけどね
   あのときだって仕事にかまけて娘にもロクに会えずにいてね・・・
   ある日、久々に家に戻ったら焼け跡になっていたさ」

フラット「火事があったとき仕事場に連絡はなかったのか?」

焼津「うちの上司にまでは連絡はいったさ・・・
   だが本当に忙しいときでね・・・
   私に現場を離れられたら困るという理由で私には何も・・・」

フラット「酷い職場だな」

焼津「私達がどんな仕事をしてるか知っているだろう?
   そのくらいじゃないと勤まらない仕事さ」

フラット「ならあんたがその職場を変えてやれ」

焼津「私はそこまで無茶は出来やしないよ
無茶する理由もないからね」

しばしの沈黙の後、焼津は再び口を開く

焼津「そういえば・・・
娘が成長したらこんな風になるんじゃないかって子を
この前、保護したわ・・・
黒髪で大人しい悪魔の女の子よ」

フラット「まさか娘の代わりなんて思ったりしてないよな?」

焼津「あの子の代わりなんて存在しないわ
   だけどあの子に注げなかった分の愛情をその子にかけてあげるつもり
   バカだと思われるかもしれないけど・・・
   あの子も私の娘だと思いたいのよ」

フラット「ま、それで身を滅ぼしたりしなければいいさ」

焼津「私を誰だと思ってるの?
   あの悪名高い焼津博士よ?」

そう言って焼津はフラットに笑顔を見せる

フラット「なら安心だな」

焼津「そうだ、今度うちの研究所に来なさいよ
   その子に会わせてあげるからさ」

フラット「あぁ、そのうちな」

・・・・・・
フラット「・・・は、いかんいかん
     そういや、今日・・・か」

薄暗い雑貨屋の店内・・・その見慣れた光景が
フラットを現実へと引き戻す。

???「フラット、お客さんが来ないからってぼーっとしてないでよ」

棚の整理をしながら茶色い髪の女が言う。

フラット「すまんすまん
     なぁ、シャープちょっくら鈴蘭でも摘みに行こうか」

シャープ「鈴蘭ですか?
     別にいいですけど何に使うんですか?」

フラット「あぁ、ちょっと友達とその家族にな」

そして小さな声でこう続けた
フラット「ウチにはあいつの代わりはムリだけどな」

シャープ「何か言いました?」

フラット「いや、気のせいやないか?
     それより準備するぞ」

シャープ「はーい」

二人は準備を整えると店の戸締りをして表通りに向かって歩き出す。
風も無く穏やかな日のことだった・・・。


『人としての死を望むなれば』

女「ごめんよフラット・・・
  折角の忠告、守れないかもしれない・・・」

女はふらふらと研究所の一室へと足を運ぶ
部屋には頭に花を咲かせた人とも魔物ともつかない生き物がいる

女はそれに向かって話し始めた

女「大丈夫?落ち着いて私の話を聞いて
  騒ぎが静まるまであなたはここに居なさい
  騒ぎが収まったら・・・」

女はそこまで言って言葉を詰まらせる
少し考えてから再び話し始めた

女「騒ぎが収まったら私が迎えに行くから
  それまではここで大人しくしててね」

生き物は笑顔で頷いた
それを見て女は軽く笑顔を作るとそのまま部屋を出る

+++++++++++++

荒れ果てた研究所をふらふらと女は歩き続ける

女「くっ・・・ちょっと花粉を吸いすぎたかしら・・・」

女の目には光り輝く世界が見えていた
火の粉は光を放ち舞い踊る妖精に
壁から突き出た鉄筋は青々とした葉をつけた木の枝に見えた
そして女の目の前に小さな女の子が一人・・・

紛れも無く最愛の娘、美緒である

女「み、美緒・・・」

娘を抱きしめようとした女の背に突如激痛が走る

自らの体からあふれ出た血さえも
彼女の目には美しき銀色の砂に見え何が起こったのかという判断を鈍らせた

意識が薄れゆく中で彼女は言葉を口にする

女「美緒・・・また、守ってやれなくてごめんね・・・
  本当にごめんね・・・」

+++++++++++++

荒れ果てた研究所の薄汚れた冷たい床に
背の切り傷から流した血で水溜りを作り人間の女が一人横たわっていた

女の前面にいた悪魔は言葉を失って
ただ呆然とその様子を見ながら涙を流していた

女の背後にいた天使は剣に付いた血をふき取ると悪魔に言った

天使「ここは危険だ
   他にも人間の追手も居るだろうし
   危険な魔物もいる あなたも早く逃げたほうがいい」

天使はそれだけ悪魔に伝えるとどこかへと去っていった

悪魔は床に倒れた人間の女に泣きついたが
それに触れた瞬間全てを理解して立ち上がり
泣きながらどこかへと走り去って行った

誰も居なくなった研究所の通路に残されたそれは
かつて紛れも無く人間だったものであり
母親として生きたものだった


『薬草売りの聖なる田舎娘』

世は第一次魔導大戦の最中・・・
エルト教団による各地への侵略、インテクノとエルハラ王国の争いの激化
人々は皆、心身ともに疲弊しきっていた。

店を失い路上販売が横行するこんなご時世
宿場も家を失った町の人々の受け入れだけで手一杯
傭兵として雇われた冒険者達に与えられた部屋は数名で一部屋が普通だった。

そんな中、冒険者達の間でこのような噂が囁かれるようになった
「辺境の村、エリシャに冒険者が休憩するスペースを設けた薬草屋がある」と
そして、今日も一人の冒険者が噂を頼りにエリシャの薬草屋を訪れる・・・。

女剣士「ちょいとジャマするよ」
入ってきた女剣士に気づいた女店主がへらへら笑いながら駆け寄ってくる。

その風貌はボサボサ頭に薄汚れたエプロンドレス
正直、あまり清潔ではないもののこの時世の貧しい村の民なら普通の格好だ。

女店主「よくぞおいでなすったなー 此処さ座ってくんろー
    すぐにうめぇハーブティーさ用意すっからなー」

店内には他にも数名の冒険者が席につきハーブティー片手に談笑していた。
女剣士が席につくとポットを持った女店主がへらへら笑いながらやってきた。

女店主「またせたなー って待ってねぇべなー
    一杯目はサービスだー 二杯目からは一杯3ソルト頂くべなー
    あ、他の冒険者との喧嘩はご法度なー
    この店ではどこの町に雇われてても同じ冒険者だかんなー
    そうだ、薬草が欲しいならこのメヌーから選んであたすに言ってなー」

女剣士「しかし、こんなご時世にどうしてこのような店を?
    薬草屋なら路上販売で十分じゃないのかい?」

女店主「あたすの兄さまも冒険者でなー
    兄さまと同じ道を選んだ冒険者に少しでも役立てばって
    初めは路上で薬草を売ってたんだけどなー
    こんなご時世だべ?
    もっと冒険者達に安らいでもらえるようにって
    こんなことを始めたってこったさ」

そう言うと女店主は屈託の無い笑顔を見せた。

女剣士「へぇ、まるであんたは私たち冒険者にとっての聖女様だな」

それを聞いて後ろの席で話してた冒険者達が口々に言う。


ヒゲ面のおやじ「よっ!聖女様!!」

魔法使い風の男「拝んどいたらご利益あるかもな!」

薄汚れた白衣を着た女「バカ、それじゃ聖女様じゃなくて神様だよ!」

厚化粧の魔法使い「聖女様なら祈ればいいじゃん」

冒険者達「それだ!!」


女店主は空いてる椅子の上に立つと軽く咳払いしてから喋りだす。

女店主「さぁ!皆あたすに旅の無事を祈るといい!!
    あたすは聖女カーラ様であるぞー!!
    戦争でこんな酷い時代だけんど無事生き抜くことが出来たら
    またあたすに顔を見せにおいで
    ハーブティーの一杯くらいはサービスするべなー」

冒険者達から拍手が沸き起こる。
女店主は少し照れくさそうに椅子から降りた。

これこそが後に聖カーラ教と呼ばれる宗教の起こりの真実である。
世は第一次魔導大戦の最中・・・
人々は皆、心身ともに疲弊していたがそこに小さな光の灯った瞬間である。


女剣士「あんたカーラさんっていうんだ いい名だね」

女店主「あぁ、カーラってのはあたすの名前じゃないべ
    このあたりの古い言葉でな 『薬草売り』っていう意味だべさ」

女剣士「薬草売りの聖女様か 悪くないね」

女店主「へへっ あんがとなー
    よーし、聖女様が歌うぞー!!知ってたら皆も一緒に歌うべさー」

冒険者達の拍手の中
ボサボサ頭で薄汚れたエプロンドレスの聖女様が椅子の上に立って歌いだす。




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